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2月 12, 2016

「この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた」読了

本書は「ある日突然、天変地異や疫病などにより多くの人命が失われ、現代社会が崩壊し運良く生き残った場合に、どのように生命を維持し、失われた技術を再発見し、文明を取り戻していくか」という思考実験のテーマに沿って書かれたものである。

以下が本書の章立てである。
  1. 僕らの知る世界の終焉
  2. 猶予期間
  3. 農業
  4. 食料と衣服
  5. 物質
  6. 材料
  7. 医薬品
  8. 人々に動力を-パワー・トゥ・ザ・ピープル
  9. 輸送機関
  10. コミュニケーション
  11. 応用化学
  12. 時間と場所
  13. 最大の発明
よくあるサバイバル術(飛行機がアマゾンやサバンナのど真ん中に不時着し、助けが来るまでの一定期間生存すれば良い)ではなく、街中の商店には衣食が残っており、それらが利用できる。しかしそれらもいつかは劣化して尽きてしまうし、人の管理がなくなった建物も崩壊していく。街の中で生存しながらも、電気・ガス・水道などの供給が停止し、また復旧するための人員も足りず、壊れた機械を修理できる人も知識も技術もなく、現状を生きていくしかないという状況が前提となっている。

現代社会は、様々な技術の上に成り立っており、それぞれの分野が多くの人間の分業によって支えられている。 またそれぞれの技術は偶然の発見、長時間の観測・実験や別の技術を経て発展してきたものなど、先人の知識や知恵によって進歩してきた。それらを紐解き、無視して通過できるものは無視し、いち早く文明を取り戻すための道が記されている。

全ての事柄を記そうとすると百科事典になるため、本書ではそのヒントとなる部分が書かれている。何をどのようにすれば、何が作られ、何に利用できるかなどの知識が主な内容だ。状況によって利用できる機材は異なるだろう。残された衣食住を利用しつつ、農業を軌道に乗せ、道具を作り出し、自動化を行い増加する人口を支え、遠くへ移動するための手段を作成する。そして記憶を記録にし、次世代へ継承していく術だ。
ここまで読んで気が付いた人も居るだろうが、「大きな災害を経て二・三十年でついに復興しました」というような規模ではない。あまりにも多くの技術が失われてしまうと、文明は後退し、映画や絵画で見たような世界を経験することになり、復旧した世界を自分の目で確かめることは叶わないまま、後生へ望みを託すことになるだろう。
しかし無視できる技術も多い。現代人は、既に電磁気力により、電気と磁力の関係・また電波の存在を知っている。文明の復旧の過程において、のろしや伝書鳩は使われることなく、海を行く無数の帆船にはアンテナが張られ、それぞれが通信を媒介しながら長距離コミュニケーションが可能となっている世界もあるだろう。ロールプレイングゲームなどでたまに見かける「大崩壊」を経験した、魔法のようなスチームパンクの世界だ。

本書を読むことにより、回りを取り囲む技術は、それを構成する別の技術に分解でき、最終的には単純な物質の反応で成り立っていることが理解できるだろう。またそれらは学校で習う内容であることにも気が付く。つまり学校で教えられていることは、良い学校へ通って、良い会社に入って、満たされた暮らしを送るためだけのものでは無い。人類が積み重ねてきた文明を後世に伝え、さらに発展させていくためのものなのだ。

文明が大破局を迎えた際、もしこの本が自宅の本棚にない場合は、すぐさま書店や図書館へ出向いて確保するべき一冊となるだろう。

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