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12月 07, 2016

生徒会役員の半日(友利奈緒 Advent Calendar 2016)

友利奈緒 Advent Calendar 2016の7日目です。


ベッドの上で目を覚ました。自宅の天井を見ると気持ちが落ち着く。
星ノ海学園へ転校してからというもの、目まぐるしい日々を過ごしている。
自分が持つ特殊能力、これを使って自分だけが上手い具合に世の中を渡って行けるだろうと考えていた矢先、同じように特殊能力を持つ人間が他にもたくさん居ることを思い知らされた。
そして、彼らを保護するという名目で、生徒会の活動をしている。
昨日は土曜日にもかかわらず呼び出しを受け、茹でる能力者と料理対決をしてきたのだ。
今日は日曜日。ゆっくり休ませてもらおう。
「腹減ったな・・・」
昨日あれだけ食べたのに、身体はエネルギーを欲しがるのか。特殊能力が余分なエネルギーを消費しているのではないか。
仕方なくベッドから身体を起こす。


ダイニングへ行くと、歩未が朝食を作っていた。
「早いな」
「有宇お兄ちゃん、おはようなのです」
よく見ると中学の制服を着ている。
「ん?お前、今日はクラブ活動かなにかか?」
「?」
「今日は日曜日だぞ」
「今日は月曜日なのです。昨日は起こしても起きなかったから」
マジか。
「俺、寝てた?」
「最近、生徒会でお疲れっぽいので、ゆっくり休めたのなら良かったのでござる」
ショックで崩れ落ちる。貴重な休日を意識不明のまま寝て過ごしただと・・・。
一気に疲労感が湧いてきた。
「そういえば昨日、おじさんから荷物が届いたのです。大きいから玄関に置いたままなので、有宇お兄ちゃんに後で片付けて欲しいのです」
「そうか。分かった」
中身は予想できる。だが前にもらったものも、まだ残っているのだ。もう少し違うレパートリーにして欲しいものだが、それなりに気を遣ってくれているのだろう。貰える物はありがたく貰っておくことにする。
しかしこのままでは、我が家はいずれ金さんラーメン屋を開業できてしまう。古いやつは生徒会室にでも持っていくか。ちょうど大食い女がいる。


押し入れから段ボール箱を掘り出していたら、すっかり遅くなってしまった。
古いものを一番奥に入れてしまっていたので、手前から古くなるように入れ替えていた。これは一時間目はギリギリ間に合わない。
このラーメンは生徒会に持っていくんだ。生徒会の活動ということにして授業は出席扱いに出来ないものか。
「♪~」
ポケットのケータイがメールの着信音を奏でる。生徒会の誰かだ。
両手で段ボール箱を抱えているのでケータイを見ることができない。しかしメロディから大体見当は付く。生徒会室へ集合すれば良いだろう。これなら急いで登校する必要もなくなる。


生徒会室の前まで来たがドアが開けられない。段ボール箱を下ろしてドアを開けると
「わ、乙坂さん」
黒羽と鉢合わせした。その後ろから友利の声が聞こえてくる。
「おせーよ」
「しょうがないだろ。こっちは大荷物抱えてるんだ」
こっちの心遣いも知らずに文句を言ってくるところにイラッとしつつ、再び箱を抱える。
「どうしたんですか?その荷物」
質問しつつ道を空けてくれた黒羽の前を横切り、部屋の中央にあるテーブルへ乗せた。
「カップラーメンが余っててな。小腹でも空いたときに食べてくれ」
「乙坂さんにしては気が利くじゃないっすか」
友利め、食い物の話になると途端に機嫌良くなりやがって。
「そういえばメールが来てたが、出動か?」
「あたしと黒羽さんで行ってきます。男達は留守番な」
「おいおい、せっかく登校したのに」
「生徒会の活動が無くても登校するのは当たり前だろ。それに今回の能力者を乙坂さんと会わせるわけにはいきません」
「なんだそれ。美人の能力者とかか」
友利は俺の質問には答えず、黒羽を廊下へ押し出す。
「さ、行きましょう」
黒羽の元気良い返事と共に生徒会室のドアが閉じられた。


なんだあれは。ソファに勢いよく座り込む。
つまらない授業に出るよりは、ここでのんびりするのも悪くない。
残されたもう一人、高城に目をやるとこちらも出かける準備をしている。
「留守番じゃないのか」
「今日はゆさりんのライブの先行発売日なので、電話予約をしてきます」
「なんだよそれ。ケータイで掛ければいいじゃん」
「乙坂さん。電話予約を舐めてはいけません」
こちらを向いた高城のメガネが怪しく光った。やばい、スイッチが入ったようだ。
「電話予約には全国から電話が殺到するのです。少しでも予約センターに近いところから電話を掛けねばなりません。しかし携帯電話で予約センターに近づいても意味が無いのです。携帯電話の電波は直接予約センターに飛ぶのでは無く、基地局を通り電話局を通って」
「分かった分かった、時間は大丈夫なのか」
「はっ、そうです。とにかく予約センター近くの電話局に設置されている公衆電話へ行ってきま」
言い終わらないうちに姿が消えたと思うと、廊下から大きな音が響いた。本当にあの能力はどうにかならないのか、そう考えながらドアに目をやると廊下が見える。
「あいつ、また!」
高城の型にくり抜かれたドアがあった。


金さんラーメンタワーを会長の机に建築し、段ボール箱を分解する。とりあえずこれをドアにあてておけば、穴は塞げるだろう。最終的には学校から費用が出るらしいのだが、それまで廊下と隔てられていない感じがして落ち着かない。
ドアを通過するときに前傾姿勢をとっていたためだろうか、穴の大きさは歩未の身長ぐらいで、思ったよりは小さい穴だった。
穴から廊下に目をやると、飛び散った破片が廊下にも散乱している。面倒くさいが、後で片付けないといけない。いくらこの学校で生徒会が特別な存在とは言え、あまりに度が過ぎた行動は禁物だろう。少しでも友利達が過ごしやすくなるためにも、周りへの対応は丁寧に行くべきだ。あいつはちょっと無茶が過ぎる。
そんなことを考えながら段ボールをドアにあてがおうとしたところ、ドアの向こうに制服姿の男が見えた。
「すみません。すぐに片付けます」
「いや、いい」
聞き覚えのある声、いつも能力者の情報を提供してくる男だ。
「通してくれるか?」
「は、はい」
段ボールを下ろしドアを開けようとすると、男が穴から部屋に入ってきた。
「ぐっ」
思いっきり肩を打ち付ける。
「うわっ、すみません!」
「だ、大丈夫だ」
髪が長すぎて前が見えていないんじゃないのか。
いつも通り水を滴らせ、少しよろけながらテーブル中央へ進む。
ポケットのケータイからメール着信音が流れてくる。友利だろう。
画面を見ると「情報提供者が行く、対応よろしく」とあっさりした一文。
慌てて俺もテーブルの前に立つ。
「能力は・・・放電」
すっと延ばした男の指先から落ちた水滴は、学校と自宅の間ぐらいに落ちた。


男がドアの穴から出て行った後、廊下を片付け、段ボールを養生テープで固定し、生徒会室を後にした。
対応よろしくには、その後の調査も含まれるはずだ。放置しておいて友利の言う科学者に捕まったら、せっかくの情報を無駄にしてしまう。
この活動にあいつほどの情熱はないが、できる範囲内では手伝ってやろうと思っている。あいつの行動はどうにも荒削りなところを感じるのだ。
生徒会長としてみんなを率いて先頭に立つことが多いが、言って聞かせるよりやってみせるタイプだろうか。ただあいつの力だけではなく、いろいろな人のサポートがあってこそ、現状があるのだ。
もう少し周りに対しての感謝とか、そういうのを出してもいいと思うのだが、俺も見返りを求めてこの活動をしているわけではないので、あまり考えないようにしよう。下手に依存関係を持つと動きにくくなるかもしれない。
「ふっ、友利と同じじゃねーか」
同じ考えに至り、口元が緩む。結局人は自分一人で生きていくしかないのだ。あいつの行動がそれを指し示しているのかもしれない。
などと考え事をして歩いていると、住宅街の通りから女性の騒ぎ声が聞こえる。


「あいつら、なにやってんだ?」
少し離れて立つ友利と黒羽。黒羽の足元にはグルグルじゃれ回っている茶色い猫が一匹。
「なんだこれは」
「乙坂さ~ん、助けてください」
情けない声で黒羽が助けを求めてくる。髪の毛がオーラのように広がり神々しく・・・はないな。静電気か、パチパチという音を立てながら放電している。
友利は少し腰を落として身構えているが、手が出せないようだ。
「ん?放電?」
熊耳の言葉を思い出す。場所は確かにここだ。放電の能力者は黒羽ということなのだろうか。
「乙坂さん、あの猫に乗り移ってどこかへ行ってください」
「はぁ?お前なんとかできないのかよ」
「やろうとしましたけど、無理なもんは無理なんだよ」
すり足で近づく友利に放電が伸びる。
「つっ」
これ以上黒羽には近づけないようだ。
「乙坂さ~ん」
黒羽が俺に手を伸ばすと放電も飛んでくる。
「痛ぇ。わかった、わかったから」
意識を集中する。黒羽の足元の猫へ。


気が付くと、激しい上下動。景色が左へ流れていく。
一瞬倒れ込んでいる俺が見えた。猫に乗り移ったらしい。
とにかく黒羽から離れないといけないのだが、走り回る速度が速すぎてどちらへ行けば良いのかよく分からない。
早くしないと意識が戻ってしまう。ここだ!
目の前に一人女性が見える。
まずい。友利だ。
「ばかっ、よせっ」
友利が身構える。このまま行くと友利に放電してしまう。猫はジャンプ力があったはずだ。腰を落とした友利なら避けられるかもしれない。
前足を強く地面について上体を起こし、後ろ足も伸ばす。大きく身体が伸びてスローモーションのように友利の上を飛び越えて・・・行かない。飛距離が全く足りない。人間より跳躍力があると言っても、所詮は猫の身体だ。飛べる距離は限られている。
そんなことを考えているうちに、友利の胸、友利が伸ばす手に向かって落ちていく。
あ、これは後で怒られるパターンだ。そんなことを感じた瞬間に、腹に大きな衝撃を受けて気を失った。

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