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2016年12月19日月曜日

スパイスガールズ

Krile Advent Calendar 2016の19日目です。

スパイスガールズ
再び大沢やよい氏の短編集ですが、氏の描かれる作品は片方が巻き込まれ系というか、振り回されるというか、いつの間にか・・・あれ?という感じが良いですね。
  • スパイスガールズ
  • 水色メソッド
  • 先生、卒業。-前編-
  • 先生、卒業。-後編-
  • 隣のお嫁さん
の五話が収録されています。
前回紹介した「屋上ぴかぴかロマンス」を読んだ時点では、まだこの作品を読んでいなかったのですが、屋上ぴかぴかロマンスに収録されていた「in secret...?」の続編として、「先生、卒業。」の前後編二編が入っていました。
「in secret...?」ではそれぞれの関係が触りだけでしか匂わされなかったので、この話で落ち着いた感がでて、ぐっと良くなりました。なのでこの「スパイスガールズ」も紹介しておきたかったのです。

タイトルにもなっているスパイスガールズですが、クールビューティー系変態さんとか出てきて楽しかったです。
どの作品も、この先まだまだ色々あるんだろうなと、想像力が働かされる終わり方が良いですね。悶々とします。

2016年12月13日火曜日

屋上ぴかぴかロマンス

Krile Advent Calendar 2016の13日目です。

屋上ぴかぴかロマンス
短編集です。
昨日のNTTrf氏も書かれていましたが、短編集はいろいろなパターンが読めてお得感がありますね。
  • 恋心メトロノーム
  • わがままファズとぴかぴかさん
  • ダブルバインド
  • in secret...?
  • 恋色エチュード
の五話が収録されています。
個人的に良かったのが「恋心メトロノーム」とその続編に当たる「恋色エチュード」。吹奏楽部員の話なのですが、今ちょうどアニメが放送されている「響け!ユーフォニアム2」の影響があるかもしれません。
ツン気味の石橋さんが最高でした。もっと見たい。
どちらかというと萌えの要素が強いのかもしれません。

2016年12月12日月曜日

The Talos Principle(Steam & PC Gaming Advent Calendar 2016)

Steam & PC Gaming Advent Calendar 2016の12日目です。

紹介するのは、「The Talos Principle」というゲームです。
リリース日が2014年12月12日。ちょうど二年前の今日です。

The Talos Principleは独特の世界観を持つパズルゲームです。
ゲームを開始すると庭園のような場所に放り出され、どこからともなく聞こえてくる声に導かれつつ謎を解いていくことになります。
使用するアイテムがいくつか出てきますが、最初のうちは種類も少なく簡単に解けるものが多いです。
レーザー光線を中継するポール、スイッチの上に置いたり登ったりできるブロック、バリアを解除できるジャマーなど。
それらのアイテムを駆使することになりますが、このゲームではクリア不可能状態に陥ることがほぼありません。大抵は何かのミスに気が付いた時点で、直前の動作から見直していけばリカバリすることが可能です。
時間制限もないので、焦ってクリアする必要もありません。若干テンポの良い操作が要求される場面がありますが、シビアな要求はされないので、だいたいはじっくり考えればクリアできます。
クリアできたときの爽快感が気持ちいいです。

はじめに独特の世界観と書きましたが、宗教や生命とはという問いかけが散りばめられています。
ただしこれらは、この庭園に設置されているコンピュータにアクセスしたときしか関係してこないので、無視して進めることも可能です。多分まともに相手をするとイラッと来る場面もあったりします。

そして自分は何者なのか・・・と言うことを考えながらプレイすると面白いのですが、ストアページで思いっきりネタバレされているので、そのへんはまあご愛敬。視点を切り替えたりしてもバレちゃますし。
ステージ数がかなりあるので、しっかりと時間を取って取りかかるか、毎日少しずつ進めていくのが良いかと思います。
3Dなので、マシンの速度が遅いと3D酔いするかもしれません。わたしの場合はウィンドウモードにして画面サイズより一回り小さいウィンドウにすれば大丈夫でした。

2016年12月9日金曜日

ロケット☆ガール

Krile Advent Calendar 2016の9日目です。
Krileはkarnoさんが作られたWindows向けTwitterクライアントです。
ソースも公開されているので、おかしなところが有ったり気に入らないところがあれば手を入れられる強みがありますね。これはオープンソース全体に言えることですが。

しかしここ数年、わたしは仕事で全くWindowsにタッチしていないので、.Netを使ったプログラムから遠ざかってしまっています。頭に残っているのは.Net 2.0とかの知識です。
Krileの新しいバージョンの開発も進んでいる?ようなので、プラグインとかで盛り上げて行けたら良いなとか考えています。


書くことがなくなってしまいました。作者のkarnoさんは百合が好きなようですので、百合漫画を紹介してみたいと思います。


ロケット☆ガール -Rock it, GiRL!!-
全2巻ですので、気軽に読めるかと思います。
現在Amazonのkindle Unlimitedで2冊とも読み放題なので、会員になっている方は是非。
女の子四人のバンドの話なのですが、メインはそのうちギターとボーカル二人の話です。

ストリートミュージシャンとして、ギターで弾き語りをしている奏。
そこへ突然現れた金髪の少女から「へたくそ」と一蹴されてしまう。
もう一人現れた女性に声を掛けられ連れて行かれたのは芸能事務所。
事務所の社長にまで、歌詞と曲は良いけど声はクソと言われてしまう始末。
そこで出会ったのが、なんと「へたくそ」と言ってきた少女。その事務所に所属している歌手だった。
金髪少女の歌声を聞いて涙を流す奏。そしてバンドを組むことになり・・・。


あからさまなイチャイチャとかは全然ありません。
最初の出会いが最悪ですし、意見が合わないことが多くて、いつもケンカをしているような感じではあるのですが、しかし描かれ方がああーいい、いいよねって感じです。

2巻に入ると、いつの間にか大スターになっている場面から始まるのですが、バンドは最悪の状態。最後へ向かっていく感じがたまりませんでした。
軽く百合分を補給したいときに良い作品かと思います。

2016年12月8日木曜日

生徒会会長の半日(友利奈緒 Advent Calendar 2016)

友利奈緒 Advent Calendar 2016の8日目です。


月曜日。また一週間が始まる。
昨日は兄の見舞いに行ってきたが、何も進展はなかった。
能力の発現時期が過ぎれば、消え去った能力と引き替えに失われたものが戻ってきたりはしないかと期待した日々もあった。しかし医者の話では、そういうことはまず考えられないだろうとのことだった。組織による解決方法の研究も進んでいるようだが、それはあくまで能力の発現を止める方法であり、手遅れとなった人間のものではない。
脳に障害を受けて何十年と植物状態だった人間が、意識を取り戻す話を聞いたことがある。その人達も、脳細胞を何十年と掛けて再生させ帰ってきたのだ。きっと兄にもそれはできると思っているが、障害を受けた範囲がどの程度なのか、何十年というレベルで修復できるものなのか、今の医学では分からない。
わたしが生きている間に再び兄と言葉を交わせることができるのだろうか。そもそも能力の発現を止める研究もどのくらい進んでいるのか。仮に能力の発現を止める研究が完成した場合、組織はどうなるのか。今の兄の状況は維持されるのだろうか。
何も変わらない日々が続く中で、心配の種は尽きない。
「♪~」
鞄の中からメールの着信音が聞こえてくる。熊耳からの連絡だ。今日もまた能力者が現れたようだ。見つかった能力者を一人ずつ対処していく。これも変わらない日常の景色になってきた。終わりの無い日常。
いつも生徒会室に現れる少し前に連絡が来る。ここからなら、少し急げば間に合うだろう。足を速めつつ、いつも通りにメンバーへメールを送る。


生徒会室にはわたしと左手に高城、右手に黒羽さん。
ドアが開く。乙坂さんは遅刻と。
「ひっ」
メールからの時間ぴったり。黒羽さんが息を飲む。わたしもあまり慣れないが、服を着たままずぶ濡れにならないと能力者の位置が分からないという、これまた困った能力らしい。
能力者は何かのタイミングで自分の能力に気が付くわけだが、熊耳はどういうときに気が付いたのだろう。池にでも落ちたときに覚醒したのだろうか。プールでも発動するのだろうか。能力者が見つかったときに自ら水を被るのか、能力者を見つけるために常に水行をしているのか。もしかしたら、ものすごくドジで服を着たまま川にでも落ちてしまうのだろうか。しかし水が臭かったことは無いので水道水なのだろう。ふと、トイレで個室の上から水を掛けられる嫌な様子を思い浮かべる。本当にあちこち問題だらけだ。
四人が中央の地図に集まる。
「能力は・・・怠惰」
落ちた雫は自宅と学校の間ぐらいを滲ませた。


「ふぅ。まだ慣れないです」
黒羽さんが息をつく。
「しかたないです。わたしは怖がっているゆさりんも拝見できるので、どんどん怖がっていいと思いますよ」
「引くわー」
黒羽さんの芸能人としての活動、西森柚咲のファンクラブ会員でもある高城。彼女のことに関してはキモオタっぷりを発揮する。それは特殊能力ではなく、本物の能力は瞬間移動。しかしこれも一直線でしか移動できない不完全さだ。
生徒会で活動を始めた当初からのメンバー。その能力も何かと役に立っている。高城が居なければわたし一人で解決できない問題も多かっただろう。わたしの持つ能力では、暴力的な解決しかできない場面が多く、自然と周りの目も厳しくなった。そんな中、高城のサポートは大変ありがたい。
「怠惰の能力って、なんでしょう」
黒羽が同じ疑問を口にした。
「他人を怠惰にさせる能力か」
あまり使えなさそうな能力だ。一番この能力に影響されそうなメンバーの顔が浮かんだ。
「この調査は乙坂さんに担当させない方がいいでしょうね」
わたしの発言に他の二人は曖昧な笑顔を浮かべた。
「それでは乙坂さんはどうしましょう。待ちますか?」
「いつ来るか分からないし、放っておきましょう」
高城が申し訳なさそうに手を上げる。
「実はこのあと外せない用事がありまして」
ふむ。仕方が無い。まあ怠惰の能力だ。黒羽さんと二人で大丈夫だろう。
「では、二人で行きましょうか」
調査に出かけようとしたところでドアが開いた。
「わ、乙坂さん」
黒羽さんの声で遅刻者が到着した事が分かる。
「おせーよ」
「しょうがないだろ。こっちは大荷物抱えてるんだ」
「どうしたんですか?その荷物」
黒羽さんの脇から大きな段ボール箱を抱えて乙坂さんが部屋に入ってくる。
「カップラーメンが余っててな。小腹でも空いたときに食べてくれ」
「乙坂さんにしては気が利くじゃないっすか」
この活動は体力勝負なところが多い。この先いつまで活動が続くのか、どこまで資金が続くのか、いつしかこの生徒会室を最終拠点として活動を続けないといけない日が来るかもしれない。最悪ここに籠城という可能性もある。活動を続けるのに必要な資材はありがたい。
「そういえばメールが来てたが、出動か?」
「あたしと黒羽さんで行ってきます。男達は留守番な」
「おいおい、せっかく登校したのに」
いかにも不満そうな顔をする。
「生徒会の活動が無くても登校するのは当たり前だろ。それに今回の能力者を乙坂さんと会わせるわけにはいきません」
「なんだそれ。美人の能力者とかか」
ひくわー。ここの男達は本当にどうしようも無い。
「さ、行きましょう」
敢えて無視でいいだろう。黒羽さんを押して廊下へ出る。


「友利さん、調査ってわくわくしません?」
大きく手を振りながら歩く黒羽さんが聞いてきた。
少なくとも今はわくわくしていない。以前はどうだっただろうか。
「あの男の人から能力は伝えられますけど、実際にそれがどういう使われ方をしているのかとか、悪い使い方をしているのかなーとか、良い使い方をしているのかなーとか、良い使い方をしている人なら良い人かなーとか、いろいろ考えちゃうんです」
学生をしながら芸能活動もしている黒羽さんは、もしかしたらわたしよりもハードな生活を送っているかもしれない。こうして生徒会の活動も可能な限り付き合ってくれる。
わたしたちの活動は、能力者の保護だ。全ての能力者を成敗しているわけではない。良い人が良い使い方をしていたとしても、それを悪い使い方をしようと考える人も居る。
「みんながみんな、良い方向にしか使わなければいいんですがね」
黒羽さんだけでなく、わたしの希望でもある。
悪い使い方をしている能力者、悪い使われ方をしそうな能力については警告していかなくてはいけない。
「一昨日の茹でる能力も、あんなに美味しい料理ができるなんて、もったいないですよね」
「そうですねぇ。でも原理としては電子レンジと同じですから、使い方を間違えれば大惨事です」
そう、全ては使い方次第なのだ。
「お姉さんの能力だって色々な物は燃やせますが、良い使い方をしたおかげで一昨日は強力な火力が得られたわけですし」
美砂の能力、発火によって料理対決では審査員を唸らせる絶妙な火加減を実現できた。
もっとも、審査員はグルメレポート番組の経験から黒羽さんだったので、出来レースではあった。
「お姉ちゃんが褒められると嬉しいですね」
黒羽さんは自分のことのようにニコニコしていた。お姉さんはもうこの世の人ではない。どちらかというと黒羽さんとは反対の生き方をしていたので、どの程度交流があったのか分からないが、身内が評価されるのはやはり嬉しいものだろう。兄とのやり取りを思い出しながら、そんなことを考えた。
「♪~」
熊耳からの連絡だ。既に調査へ出発しているのに、さらに能力者が見つかったのか。今から戻るのは面倒だ。
「乙坂さんに頼むか」
「また能力者ですか? 多いですね」
「大忙しですよ」
メールを送ってカメラを構え直す。そろそろ目標の場所だ。


「猫ですね」
「猫ですね」
お互いに確認し合う。
住宅街の道の中央で太陽の光を浴びた茶トラ模様の猫が寝転がっている。起きてはいるようだ。
「気持ちよさそうですねー。でもこんなど真ん中にいたら車にひかれちゃいますよ」
黒羽さんが道の端にしゃがみ込み、手招きをする。ファインダー越しの猫はそれを一瞥しただけで、再び横になった。
「だめですね」
猫にはアイドルの価値は分からないらしい。耳を動かして近づいて来る黒羽さんの音を追っている。
黒羽さんは再び猫のそばでしゃがんで撫で始めた。
「動きたくないのかな」
撫でるだけでは飽き足らず、両腕を持って遊び始めたが猫は頑なに身体を起こそうとはしない。
「ずいぶん怠けものの猫さんですね」
黒羽さんの言葉にはっとする。これは怠惰の能力なのでは。
「もしかして、この猫が怠惰の能力者」
「猫さんは能力『者』なんでしょうか」
黒羽さんの疑問にわたしは確実な答えを持ち合わせていない。熊耳の能力もどのくらい確実なのか、そもそも動物も特殊能力を持ちうるのか、何もかも不明だ。
「それらしい人間がいるか探してみましょう」
わたしと黒羽さんが立ち上がり歩き出すと、それまでやる気の無かった猫が一緒に立ち上がり付いてきた。どうやらアイドルに撫でられてやる気が出たのか。高城の姿と重なる。
「おや、付いてくるんですか」
猫は黒羽さんの足元をぐるぐると回り出す。
「まるで高城みたいな猫ですね」
「あはは、急に元気が出ましたね」


「と、友利さん・・・」
心配そうに黒羽さんが見つめてくる。先程から見ていたのでわたしも状況が分かっているが、一応ツッコミを入れておこうか。
「黒羽さん、いつまでも遊んでないで調査を続行しますよ」
「うわーん、友利さんがいじめる」
黒羽さんにまとわりついていた猫は、先程までよりも速度を増している。みるみる加速していく猫はカメラの走査と同じぐらいの回転になっているのか、ファインダー越しには後ろ向きに歩いているかのように見え、そのうち停止しているような映像となっていた。
特殊能力というあまりにも非現実的な事象に普段から接していると、この猫のことでさえ冷静に見てしまう。
「この猫は怠惰の能力者ではなさそうですね」
「友利さん、落ち着いてないで助けてください」
「助けると言っても」
下手に黒羽さんが動けば高速な猫と衝突して無事では済まない。もちろんわたしも同じだ。この事態の前では、不可視の能力など役に立たない。
そんなことを考えているうちに、パチパチという音が聞こえて、やがてバチバチという激しい音と共に黒羽さんから放電が始まる。
「黒羽さん!」
手を伸ばそうと試みるが、大きな稲妻が伸びて来て思わず後ずさる。
いつしか黒羽さんの髪は大きく広がり、全身からスパークが伸びている。
「友利さん!」
助けを求める手を伸ばす度に放電が起きるので、それを避ける。このままでは近づくこともできない。
「黒羽さん、ちょっと待ってください。考えます」
「なんだこれは」
ちょうどそこへ乙坂さんが現れる。更なる新しい能力者も同じ方向にいたのだろうか。
「乙坂さ~ん、助けてください」
黒羽さんは乙坂さんへも助けを求めている。そうだ、あの能力があれば。
「乙坂さん、あの猫に乗り移ってどこかへ行ってください」
「はぁ?お前なんとかできないのかよ」
「やろうとしましたけど、無理なもんは無理なんだよ」
今来た乙坂さんでは状況が分からないだろう。ゆっくりと黒羽さんに近づいてみせる。
「つっ」
先程と同じように放電が伸びてきた。
「乙坂さ~ん」
黒羽さんが乙坂さんへ手を伸ばすと放電も飛んでいる。
「痛ぇ。わかった、わかったから」
乙坂さんの目が光ると共にぐったりと前に倒れ、黒羽さんとの距離が近づいたためスパークの餌食となっている。
乙坂さんが乗り移った猫は何周かした後、砲丸投げの球のように飛び出してきた。
こちらへ!
「ばかっ、よせっ」


あまりにも猫の速度は速く避けるのは難しい。このままではわたしも放電を食らってしまうし、感電によって筋肉が収縮し動けなくなるだろう。
猫はわたしの前でジャンプをして避けようとする。しかし猫のジャンプだ。高さがしれている。わたしを飛び越えるには至らず、飛び込んでくる。そうだ、感電によって筋肉が収縮するということは、あの動きならできるはず。
腰を落としてバレーボールのレシーブ体制を取る。位置を合わせたところでスパークがわたしの腕に当たり、重ねた手が猫の腹を押し上げる。
「うっ」
猫は若干低いうめき声と共に数メートル高く舞い上がり、再び地球の重力によって落ちてくる途中、電線に強力な電気を放出した。
ポンッという音と共に、あちこちの電柱から小さい煙が上がった。猫は塀の上に着地したかと思うと、放電に驚いたのか、音に驚いたのか、走り去ってしまった。


猫が離れたことにより、黒羽さんに帯電していた電気は無くなったようだ。
「乙坂さん、起きないですね」
黒羽さんが突いているが反応しない。高城なら突かれるために気を失ったふりをするかもしれないが、乙坂さんはそういうことはしなさそうだ。
乗り移っている間のダメージは本人の意識に送られるらしく、どのタイミングまで意識が猫にあったのか分からないが、この様子だと腹に両腕でフックを決めたところまでは意識があったのだろう。
「やむを得ないとは言え、少し悪いことをしました。仕方ないです。一度連れて帰って態勢を立て直しましょう」
二人で運ぶのは少し難しそうだ。高城は用事があると言っていたが、後から回収させることができるだろうか。携帯電話を取りだして電話を掛けてみる。
「あ、高じょ」
「今日はゆさりんのライブ予約電話を一番有利になる電話局前の公衆電話からチャレンジしたのですが、それでも戦いは激しく、やっと繋がったかと思ったところで辺り一帯に放電が走り、電話機からは火が噴き出し、二度と電話が繋がることはなかったのですよ!」
「引くな!」

2016年12月7日水曜日

生徒会役員の半日(友利奈緒 Advent Calendar 2016)

友利奈緒 Advent Calendar 2016の7日目です。


ベッドの上で目を覚ました。自宅の天井を見ると気持ちが落ち着く。
星ノ海学園へ転校してからというもの、目まぐるしい日々を過ごしている。
自分が持つ特殊能力、これを使って自分だけが上手い具合に世の中を渡って行けるだろうと考えていた矢先、同じように特殊能力を持つ人間が他にもたくさん居ることを思い知らされた。
そして、彼らを保護するという名目で、生徒会の活動をしている。
昨日は土曜日にもかかわらず呼び出しを受け、茹でる能力者と料理対決をしてきたのだ。
今日は日曜日。ゆっくり休ませてもらおう。
「腹減ったな・・・」
昨日あれだけ食べたのに、身体はエネルギーを欲しがるのか。特殊能力が余分なエネルギーを消費しているのではないか。
仕方なくベッドから身体を起こす。


ダイニングへ行くと、歩未が朝食を作っていた。
「早いな」
「有宇お兄ちゃん、おはようなのです」
よく見ると中学の制服を着ている。
「ん?お前、今日はクラブ活動かなにかか?」
「?」
「今日は日曜日だぞ」
「今日は月曜日なのです。昨日は起こしても起きなかったから」
マジか。
「俺、寝てた?」
「最近、生徒会でお疲れっぽいので、ゆっくり休めたのなら良かったのでござる」
ショックで崩れ落ちる。貴重な休日を意識不明のまま寝て過ごしただと・・・。
一気に疲労感が湧いてきた。
「そういえば昨日、おじさんから荷物が届いたのです。大きいから玄関に置いたままなので、有宇お兄ちゃんに後で片付けて欲しいのです」
「そうか。分かった」
中身は予想できる。だが前にもらったものも、まだ残っているのだ。もう少し違うレパートリーにして欲しいものだが、それなりに気を遣ってくれているのだろう。貰える物はありがたく貰っておくことにする。
しかしこのままでは、我が家はいずれ金さんラーメン屋を開業できてしまう。古いやつは生徒会室にでも持っていくか。ちょうど大食い女がいる。


押し入れから段ボール箱を掘り出していたら、すっかり遅くなってしまった。
古いものを一番奥に入れてしまっていたので、手前から古くなるように入れ替えていた。これは一時間目はギリギリ間に合わない。
このラーメンは生徒会に持っていくんだ。生徒会の活動ということにして授業は出席扱いに出来ないものか。
「♪~」
ポケットのケータイがメールの着信音を奏でる。生徒会の誰かだ。
両手で段ボール箱を抱えているのでケータイを見ることができない。しかしメロディから大体見当は付く。生徒会室へ集合すれば良いだろう。これなら急いで登校する必要もなくなる。


生徒会室の前まで来たがドアが開けられない。段ボール箱を下ろしてドアを開けると
「わ、乙坂さん」
黒羽と鉢合わせした。その後ろから友利の声が聞こえてくる。
「おせーよ」
「しょうがないだろ。こっちは大荷物抱えてるんだ」
こっちの心遣いも知らずに文句を言ってくるところにイラッとしつつ、再び箱を抱える。
「どうしたんですか?その荷物」
質問しつつ道を空けてくれた黒羽の前を横切り、部屋の中央にあるテーブルへ乗せた。
「カップラーメンが余っててな。小腹でも空いたときに食べてくれ」
「乙坂さんにしては気が利くじゃないっすか」
友利め、食い物の話になると途端に機嫌良くなりやがって。
「そういえばメールが来てたが、出動か?」
「あたしと黒羽さんで行ってきます。男達は留守番な」
「おいおい、せっかく登校したのに」
「生徒会の活動が無くても登校するのは当たり前だろ。それに今回の能力者を乙坂さんと会わせるわけにはいきません」
「なんだそれ。美人の能力者とかか」
友利は俺の質問には答えず、黒羽を廊下へ押し出す。
「さ、行きましょう」
黒羽の元気良い返事と共に生徒会室のドアが閉じられた。


なんだあれは。ソファに勢いよく座り込む。
つまらない授業に出るよりは、ここでのんびりするのも悪くない。
残されたもう一人、高城に目をやるとこちらも出かける準備をしている。
「留守番じゃないのか」
「今日はゆさりんのライブの先行発売日なので、電話予約をしてきます」
「なんだよそれ。ケータイで掛ければいいじゃん」
「乙坂さん。電話予約を舐めてはいけません」
こちらを向いた高城のメガネが怪しく光った。やばい、スイッチが入ったようだ。
「電話予約には全国から電話が殺到するのです。少しでも予約センターに近いところから電話を掛けねばなりません。しかし携帯電話で予約センターに近づいても意味が無いのです。携帯電話の電波は直接予約センターに飛ぶのでは無く、基地局を通り電話局を通って」
「分かった分かった、時間は大丈夫なのか」
「はっ、そうです。とにかく予約センター近くの電話局に設置されている公衆電話へ行ってきま」
言い終わらないうちに姿が消えたと思うと、廊下から大きな音が響いた。本当にあの能力はどうにかならないのか、そう考えながらドアに目をやると廊下が見える。
「あいつ、また!」
高城の型にくり抜かれたドアがあった。


金さんラーメンタワーを会長の机に建築し、段ボール箱を分解する。とりあえずこれをドアにあてておけば、穴は塞げるだろう。最終的には学校から費用が出るらしいのだが、それまで廊下と隔てられていない感じがして落ち着かない。
ドアを通過するときに前傾姿勢をとっていたためだろうか、穴の大きさは歩未の身長ぐらいで、思ったよりは小さい穴だった。
穴から廊下に目をやると、飛び散った破片が廊下にも散乱している。面倒くさいが、後で片付けないといけない。いくらこの学校で生徒会が特別な存在とは言え、あまりに度が過ぎた行動は禁物だろう。少しでも友利達が過ごしやすくなるためにも、周りへの対応は丁寧に行くべきだ。あいつはちょっと無茶が過ぎる。
そんなことを考えながら段ボールをドアにあてがおうとしたところ、ドアの向こうに制服姿の男が見えた。
「すみません。すぐに片付けます」
「いや、いい」
聞き覚えのある声、いつも能力者の情報を提供してくる男だ。
「通してくれるか?」
「は、はい」
段ボールを下ろしドアを開けようとすると、男が穴から部屋に入ってきた。
「ぐっ」
思いっきり肩を打ち付ける。
「うわっ、すみません!」
「だ、大丈夫だ」
髪が長すぎて前が見えていないんじゃないのか。
いつも通り水を滴らせ、少しよろけながらテーブル中央へ進む。
ポケットのケータイからメール着信音が流れてくる。友利だろう。
画面を見ると「情報提供者が行く、対応よろしく」とあっさりした一文。
慌てて俺もテーブルの前に立つ。
「能力は・・・放電」
すっと延ばした男の指先から落ちた水滴は、学校と自宅の間ぐらいに落ちた。


男がドアの穴から出て行った後、廊下を片付け、段ボールを養生テープで固定し、生徒会室を後にした。
対応よろしくには、その後の調査も含まれるはずだ。放置しておいて友利の言う科学者に捕まったら、せっかくの情報を無駄にしてしまう。
この活動にあいつほどの情熱はないが、できる範囲内では手伝ってやろうと思っている。あいつの行動はどうにも荒削りなところを感じるのだ。
生徒会長としてみんなを率いて先頭に立つことが多いが、言って聞かせるよりやってみせるタイプだろうか。ただあいつの力だけではなく、いろいろな人のサポートがあってこそ、現状があるのだ。
もう少し周りに対しての感謝とか、そういうのを出してもいいと思うのだが、俺も見返りを求めてこの活動をしているわけではないので、あまり考えないようにしよう。下手に依存関係を持つと動きにくくなるかもしれない。
「ふっ、友利と同じじゃねーか」
同じ考えに至り、口元が緩む。結局人は自分一人で生きていくしかないのだ。あいつの行動がそれを指し示しているのかもしれない。
などと考え事をして歩いていると、住宅街の通りから女性の騒ぎ声が聞こえる。


「あいつら、なにやってんだ?」
少し離れて立つ友利と黒羽。黒羽の足元にはグルグルじゃれ回っている茶色い猫が一匹。
「なんだこれは」
「乙坂さ~ん、助けてください」
情けない声で黒羽が助けを求めてくる。髪の毛がオーラのように広がり神々しく・・・はないな。静電気か、パチパチという音を立てながら放電している。
友利は少し腰を落として身構えているが、手が出せないようだ。
「ん?放電?」
熊耳の言葉を思い出す。場所は確かにここだ。放電の能力者は黒羽ということなのだろうか。
「乙坂さん、あの猫に乗り移ってどこかへ行ってください」
「はぁ?お前なんとかできないのかよ」
「やろうとしましたけど、無理なもんは無理なんだよ」
すり足で近づく友利に放電が伸びる。
「つっ」
これ以上黒羽には近づけないようだ。
「乙坂さ~ん」
黒羽が俺に手を伸ばすと放電も飛んでくる。
「痛ぇ。わかった、わかったから」
意識を集中する。黒羽の足元の猫へ。


気が付くと、激しい上下動。景色が左へ流れていく。
一瞬倒れ込んでいる俺が見えた。猫に乗り移ったらしい。
とにかく黒羽から離れないといけないのだが、走り回る速度が速すぎてどちらへ行けば良いのかよく分からない。
早くしないと意識が戻ってしまう。ここだ!
目の前に一人女性が見える。
まずい。友利だ。
「ばかっ、よせっ」
友利が身構える。このまま行くと友利に放電してしまう。猫はジャンプ力があったはずだ。腰を落とした友利なら避けられるかもしれない。
前足を強く地面について上体を起こし、後ろ足も伸ばす。大きく身体が伸びてスローモーションのように友利の上を飛び越えて・・・行かない。飛距離が全く足りない。人間より跳躍力があると言っても、所詮は猫の身体だ。飛べる距離は限られている。
そんなことを考えているうちに、友利の胸、友利が伸ばす手に向かって落ちていく。
あ、これは後で怒られるパターンだ。そんなことを感じた瞬間に、腹に大きな衝撃を受けて気を失った。

2016年12月5日月曜日

歴代の自宅サーバ(自宅サーバの思い出 Advent Calendar 2016)

自宅サーバの思い出 Advent Calendar 2016の5日目です。

自宅サーバは今でも絶賛稼働中なのですが、自宅サーバの思い出ということで、歴代のサーバを振り返ってみたいと思います。
手元にある写真で一番古かったのが、上に載せた2000年の写真。
右下の一番壁際に写っている薄いやつが、Digital Equipment Corporation(DEC)の型番がうろ覚えで、検索しても出てこない機種。
DECのマシンというとAlphaチップが載った当時としては高性能マシンを思い浮かべますが、これはインテルの一般的なWindows向けマシンです。

昨日の記事にもあった、Windowsと言えばAN HTTPDと、Active perlを組み合わせて日記コンテンツを配信していました。この日記の初期の頃です。
正面からの写真がありました、2001年。
左の写真の右側、右の写真では下段の左側ですね。
一緒に写っているPC-9801BX2なぜか2台と、zipドライブの箱が時代を感じさせます。


2代目が先ほどの写真と同じ位置でマシンだけ入れ替わりました。左上に写っている3台のうちの一番右。
2002年です。新しいメインマシンを買ったので、玉突きでサーバに昇格(降格?)したようです。1枚目のサーバの右側に写っているメインマシンとして使っていた筐体です。
えっちなゲームを作っていた時代に素材・進捗・QA管理システムを自作して運用していました。そう言うシステムを組む暇と、組む必要がありました。色々ありましたしね・・・。
HDDをカートリッジで着脱できるようにして、火事でも起きたら持って逃げられるようにしてました。分かりにくいですが、拡大すると3台もカートリッジ付けてますね。


3代目。2003年です。2002年の後半だったかもしれません。
カートリッジは相変わらずつけたまま、DVDドライブも付きました。
CREATIVEのDVDドライブですが、IDE(ATAPI)端子ではなく、これはサウンドブラスター16から独自端子で接続するタイプだったはずです。
手前に少し出っ張っていますが、マザーボードのコンデンサと干渉して奥まで差し込めなかったという自宅サーバだからこそできる運用をしていました。

当時「トリビアの泉 〜素晴らしきムダ知識〜」という雑学を紹介する番組が放送されていました。出演者が押すと「へぇ~」と鳴るボタンが好評でアクセサリーなども売られていました。しかし本当にみんな「へぇ~」と思っているのか?という疑問から「へぇオンライン」というサービスを運用していました。
このサービスは番組終了の2007年まで運用されていました。


へぇオンラインのサーバが、WindowsのDirect Playを使って動いていたため、これが終了するとWindowsに拘る必要がなくなりました。
そのため自宅サーバがLinuxに移行しました。過去の日記を見てみると、CentOS5.0を採用していたようです。
ここからしばらく は、自宅サーバは日記を配信するだけのシステムとなっていました。


そして2009年から、ふぁぼるっくの運用が始まりました。
ATOMチップの小型NUCでの運用開始でしたが、すぐに容量的に厳しくなり、従来のPCサーバに戻したり、複数台の分散体制になったり。自宅サーバだけでは足りなくなってVPSに出て行ったりその辺りの話は、また別のスライドで


現在は業務用ルーターや無停電電源装置が導入され、ラックマウント勢ではありませんが、自宅サーバ中堅ぐらいにはなっているでしょうか。

上げた写真が全体的にごちゃごちゃしていましたね。整理整頓、大事です。
ネットで見かける自宅サーバ写真は大体ごちゃごちゃしていて、それも好きなんだけど、凄い整理整頓されている写真というのも見てみたい気がします。



VPSやクラウドを経験してしまうと、自宅サーバは本当に面倒くささしかなくて、お金を払ってでもそういうインフラ管理をやってもらいたい場合には外に出した方がいいなという感想です。
この記事の最初の頃などは、自宅サーバというか、PCは壊れやすいものという印象が強かったのですが、最近そうでもないですよね。監視をしっかりとやったり、RAIDで故障に備えたり、ルーターが強化されたり、インフラ周りの知識が高まっているせいかもしれません。今後は自宅サーバは障害でつらいという経験は減っていくのかもしれません。


自宅サーバというのは、スペックを上げた後のランニングコストを気にしなくていい、希に発生する障害に対応さえきちんとできれば割と安くで好きな環境を構築できるので、個人的にはこれはこれで有りだなと考えています。今度、売り上げが少ないサービスをAWSから引き上げて自宅サーバにまとめる予定もしています。

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